430MHz用K1FO八木アンテナの製

独り言
   1987年、K1FOSteve Powlishen が22エレのロング八木を発表し、日本でもJM1MCF、加藤雄大氏1990年に Ham Journal No.65 で解説されております。ただ、USAのインチ規格と日本のミリ規格との橋渡しをするような実践的記事は日本では発表されていませんでした。(エレメント径がインチ規格だと4.76mmなのに対し、JIS規格では5mm。長さが同じでも、エレメント径が変わると、共振周波数も変わる。この0.24mmの差がどの程度影響するか、シュミレートも実験もされていなかった。)
 このアンテナを実験した1990年当時はまだ、パソコンも高速化されておらず、PCもNECの98シリーズが主流でした。アマチュアが入手出来る海外製アンテナ・シュミレーション・ソフトは、当然DOS/V機でしか動きませんでした。しかたなく「
コロボックル」というDOS/V用ソフトをNECのPC−98で走らせる、一種のインタープリタ・ソフトを利用してシュミレーションを重ねました。重宝して使ったのは W7EL ELNEC」(現在は「EZNEC」)というソフトです。CPUのスピードはDX2で50MHzとか75MHzで、今では想像も出来ない遅さです! 22エレ位ですと30分は計算していたと思います。画面に何の変化も無いので、使い慣れないうちはフリーズしたと何度も勘違いしました。データを少しずつ変えながら、その度に30分待つ事の繰り返しでした。まだ若かったせいか、よく徹夜をしたものです。
 今では
YSIM for WindowsMMANA等のフリー・ソフトが利用出来るので、興味のある方はダウンロードして使ってみて下さい。サンプル・アンテナも豊富に入っているので、使い易いと思います。

データ
   エレメント径や貫通するブーム径、絶縁ブッシングの形状等によってオリジナルのK1FOと少しサイズが違ってきます。以下のデータを変更される時は、それなりの補正が必要です。当局は入手容易な6063系のアルミ丸パイプをブームに使用しております。4m定尺ですと半分に切れば2mですし、3分の1で1.333mです。エレメントはラジエターを除いて5mmφのジュラルミン棒の63Sを(57Bは錆びやすいのでNG)、ラジエターは5mmφの銅棒もしくは真鍮棒(棒がなければパイプでも可)を使います。マッチングと給電は一般的には、TマッチUバランがやりやすいかと思います。絶縁ブッシュは内径5mmのジュラコン・ブッシュがネジ屋さんに行くとある筈です。エレメントのブームへの固定はステンレス製の輪留め(5mmφ用)で2個のジュラコン・ブッシュごとブームを挟み込むように止めます。1990年当時はテープで巻いたりエポキシの接着剤を付けたりしましたが、このステンレスの輪留めで充分な強度が確保されています。

ブームパイプ

エレメントNo.

エレメント長mm

ブーム端からmm

備考

20φ×1.5t

1333mm

REF

345

165

 

RA

339

269

 

D1

320

311

 

D2

311

389

 

D3

304

497

 

D4

300

631

 

D5

296

787

 

D6

294

963

 

D7

292

1155

125mm重なり寸法

25φ×2.0t

2000mm

D8

292

153

125mm重なり寸法

D9

290

371

 

D10

288

599

 

D11

286

838

 

D12

285

1079

 

D13

284

1330

 

D14

283

1586

 

D15

282

1847

125mm重なり寸法

20φ×1.5t

1333mm

D16

279

236

125mm重なり寸法

D17

278

504

 

D18

277

775

 

D19

276

1049

 

D20

275

1324

 

「それなりの補正」ですが、シビアに考えると実は結構難しい問題になります。エレメントが貫通するパイプの径による補正とブッシュの形状と誘電率による補正、エレメントの端末の処理による補正。厳密に考えると大変になるので、オリジナルのK1FO−22のデータを見てみましょう。反射器の長さは径が4.76mm(3/16-inch)の時に自由空間では340mmとなっておりますが、実際の製作では、22.2mm(7/8-inch)のブームにインシュレーター(ブッシュ)をかまして、346mm(プラス6mm)に補正してあります。第10導波器では径が25.4mm(1-inch)のブームで、281mmを288mmにプラス7mmの補正をしております。補助ブームなしで、たわみを気にしないで設置できるのはこの大きさ位だと思います。当局は、16mm外径、1mm厚のアルミ・パイプを先端に追加して24エレまで製作しましたが、この辺が限度でしょう。



K1FO-24 4列2段

実際の製作と注意点
 詳しくはCQ誌1991年4月号をご参照下さい(このページの巻頭からもジャンプ出来ます)。その後、ローカル局が何本か製作したものを見たり、「ハム・フェアー」で他人様の作ったK1FOも見ました。「どうしても1本だけSWRが下がらない」とか「周波数がズレている」「TマッチのTロッドの長さを教えて欲しい」等々いろいろ質問を受けました。その中から代表的な事例を挙げて、説明いたします。
・SWRが下がらない理由1
 案外 多かったのがブームの穴あけの時に出来た「バリ」の取り忘れです。長いものですと1cm位あるバリがあり、そのバリがエレメントと接触してSWRが下がらない事がありました。エレメントを取り付ける前に、ブーム・パイプを明るい方にかざして、中を覗いて見て下さい。バリが出ていたら、面倒でも丁寧にバリ取りをしましょう。最近では、DIY店に行くとバリの出ないドリルも売ってます。
・SWRが下がらない理由2
 
給電部の防水処理剤として、高周波特性の良くないものを使用している場合です。ローカル局は「バス・コーク」なるもので給電部をしっかり充填してありましたが、SWRはどうあがいても下がりません。バス・コークをむしり取ると、SWRは嘘のようにスッと下がります。その後、エポキシ接着剤で固めて事なきを得ました。
・SWRが下がらない理由3
 
Uバランや同軸ケーブルのリードが長過ぎる場合です。確かに同軸になっている部分は1/2λなのですが、そこから先のリードが2cm以上あるような配線の仕方があります。電気長が狂いますのでなるべく短く配線して下さい。
・SWRが下がらない理由4
 Tマッチの不整合です。よく「Tロッドの長さは何cmなんですか?」と質問を受けました。「〇.□cmです」と言いたいところですが、同じ材料を使っていればそういう風に答えるべきかも知れませんが、敢えて「自分で調整して下さい」としか言ってきませんでした。
 よく、Tマッチは一種のトランスの様な物だとか説明されております。確かにそうなのですが、単なるトランスではありません。「マッチング」トランスなのです。アンテナのシュミレーションをすると、給電部インピーダンス「25.6−j 3.5 Ω」などと表示されている筈です。この「」(ジェイ)成分で誘導性・インダクティヴ、−jで容量性・キャパシティヴ。簡単に言うとコイルかコンデンサーかと言う事)をもマッチングさせるのです。相手(アンテナ・ラジエーター)がインダクティヴであれば、Tロッドとエレメントの間で形成されるキャパシティーをTロッドの長さを変える、即ち両端から少しずつTロッドを切りつめる作業でマッチングをとります。またキャパシティヴであればエレメントとTロッドをつないでいるショートバーの位置をずらして調整します。ただし、ショートバーとTロッド、エレメントとの接触不良があると、後から半田付けすると、一気にSWRが悪化します。導電グリスなどで前処理をしておいて下さい。
 Tマッチの調整の仕方は、まずショートバーをスライドさせて目的周波数でSWRの下がる所に仮固定します。続いてTロッドを両端から5mmずつくらい切りつめて、SWR最小点に追い込みます。これを3回も繰り返せば十分だと思います。(
私は1回しかやりませんが。)そして、最後に半田付けです。半田の量は必要十分にして最小限にして下さい。ボッテリ盛りますと、SWRが悪化します。また、寒い時期の屋外での半田付けはワッテージの高いコテを使っても、半田付け不良になり易いので、十分注意ながら作業されて下さい。半田付けのあとは、必ず防水処理(エポキシ系接着剤でのコーティング)をしておいて下さい。

あとがき
 
個人的には、ご自分で材料を集めて加工される事を希望しますが、なかなかそうも行かないのが現実です。実際の製作となると二の足を踏まれる方も多々いらっしゃると思います。アルミの切りクズが部屋に散乱するのもイヤですし、材料の手配も結構面倒です。そんな方々は、ネット上でキットを頒布している方が多々おりますので、それらをご利用されるのも良いと思います。しかしながら、やはり一度はご自身の手で寸法どりをして、自作の醍醐味を味わってみてください。また、シュミレーション・ソフトを駆使してご自分だけのアンテナを設計されるのも宜しいかと思います。アンテナ温度 Gain/Temperature の事も関与してくるので実際の設計はもう少し複雑になりますが、やりがいはあります。